9 初デート 2

俺が住んでいるところは3番目の首都で首都に指定されてから凄い速度で大きくなった街だ。あ、ちなみに、日本は大戦中に首都機能を複数に分割するようになった。もし攻撃を受けて首都が首都として機能しなくなったらヤバイからっていうのが理由だったと思う。
ちなみにどこなのかと言えば第一首都の東京よりは南という事だけ言っておこうかな。もし詳細な位置を言うと、「キミカの家探してみようぜ〜!」だとか「この辺だろうから俺が来た証に『○○参上!』って書いておこうかな」だとか「せっかくだからチャイム押して逃げようぜ」などと言う輩が俺の家やら周囲に迷惑を掛けてしまうだろうから言わない。
我が高校は都心部から離れた場所、しかも周りは住宅やら公園やらが広がっている場所にあって、都心まで歩けばかなりの距離になる。というわけでバスやらを使って都心部まで移動して寄り道をすることになるのだ。あぁ、つまり、寄り道っていうのは正確には違っていて寄るんじゃなくて、わざわざ足を運ばなきゃいけないって事ね。俺達3人はバスで都心部まで移動して駅前で降りてから商店街やらを散策した。
ナノカが最近出来た喫茶店に行ってみたいと言うので、今はその洒落た感じの喫茶店にいる。建物は小さいけどベランダやらの敷地が大きくて、そこにテーブルが並んでいて雨の日以外は客は大きなパラソルの下でコーヒーだとかカプチーノだとかを飲んでいる。仕事帰りのサラリーマンが一人でテーブルを占有して雑誌なんかを読んでいる様はまるでヨーロッパの街並みに溶け込んでいる風にも見える。
俺はコーヒーを、ナノカはパフェとアイスコーヒー、ビッチはキャラメルラテを注文、届いてから3人でそれらを飲んでいると、ナノカは俺を見ながら言う。
「キミカっち、様になってるねぇ」
「え?」
「そのコーヒー飲んでる姿が落ち着きがあっていいねーって思って」
「あぁ、そう…」
「キミカっち、女子の間でも人気があるんだよーっ」
そうなのか…。女子が女子を好きになる、というか、尊敬するっていうのはあるとは思うけど、どういう条件なのかわかんないな。
「ね〜。ユウカ」と話をビッチのほうにふるナノカ。
「そうだね〜」とそうだね〜の後に(棒って入れたくなるぐらいの棒読み口調で同意するビッチ。まぁライバルのビッチとしては俺が男子に人気があっても女子に人気があっても腹ただしい事だろうね。俺が変態や先生に人気があるのならどうでもいいのだろうけど。
「やっぱりあたしがテニスで勝ったからかな?かな?」と、とりあえず挑発を入れてみる。
「あぁ!あれは凄かったね!一時期話題を独占してたでしょ!体育倉庫をテニスボールで吹き飛ばした人がいるって」とナノカ。
そなのか。
ビッチはテニスの事については思い出したくもない思い出の一つになっているらしく、ため息をついた後、不機嫌そうに眉間にシワを寄せながら言う。
「その噂、正確に伝わってなくて『私とキミカがテニスしてて喧嘩になって、お互いが殴り合っているうちに体育倉庫も壊れた』ってなってるんだけど、ほんと、勘弁してほしいわ。プロレスラーじゃないんだから。それとテニスが理由で人気があるんじゃないから、そこんとこよろしく」
何がよろしくなのかわかんないな。
「キミカっちが人気なのはねー、落ち着きがあるからじゃないかな?おっとりしてるっていうか、どっしりしてるっていうか」
俺は男でいたときから随分と落ち着きがある奴だった。ちょっとやそっとの事では感情が揺らぐ事はない。ある意味冷血というか無関心・無神経とも言える。女っていう生き物は男と比べると若干は感情のゆらぎが大きいからな、ちょっとの事で笑ったり泣いたり怒ったりする。そういう人から見たら俺は大人びて見えるんだろう。
「みんな、あたしみたいな『落ち着きがある女性』になりたいって思っているから人気があるって事なのかな?」
「え、どうなんだろ。そういうんじゃなくて、もしキミカっちが男の人だったらお付き合いしたいなっていうレズビアン的なものじゃないかな?」
レズビアン的なもの…(ゴクリ」
と、俺とナノカがいつものレズ展開になりそうだった雰囲気を察してか、ビッチは「あー、はいはい。今飲み物を流し込んでいるところだから、そういう気持ち悪い話はやめましょうねー」と子供に叱りつけるように言う。
「なになにぃ、ユウカだって言ってたじゃん」とナノカ。言ってたっていうのは俺の事を何か褒めてたって事なんだろうか。それともこの話の流れで行けば俺とレズビアン的な関係になりたいって事を意味してるのだろうか。
ビッチは飲み物を肺のほうに間違えて流しこむような事になりそうだったみたいで思いっきり咳き込んで、
「ちょっ…!言ってない!言ってないわよ。何勝手に創作してるのよ。ほんと、ナノカはいつかまた薄い本で校内の誰かと誰かを勝手にくっつけてコミケとかで売りそうよね。私が言ってたのはそういう意味じゃないのよ」
と顔を少し赤くしていうビッチ。
「あ、私用事を思い出しちゃった。薄い本買ってこなきゃ」と、まるでそのタイミングを見計らったかの様にわざとナノカは俺達二人を残して去りやがった。薄い本ってなんの事かな。パンフレットの事?。俺はあ然としながら人ごみに消えていくナノカの背中を見ていた。