2.口寄せ師のはつみ

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森から草原へ抜けると小高い丘に出る。そこから見渡せる小さな集落、イスプリスの村だ。村ではちょうど収穫の時期でアケディアの木になる梨は青く硬くてまだ食べることは出来ないが地面へ落下した梨は調度食べ頃になっている。それを荷車へと集める作業の為、木の下では村人達が忙しく動き回っている。
丘の上には先ほど森から出てきた少女が一人と馬ほどの大きさの山犬が付き添うように傍に立っていた。少女は東方の術師が着用する装束に身を包み、傍に立つ山犬の額には東方の古代文字が刻まれていた。
少女は懐かしそうに集落を見渡す。
「父さん、母さん、私の成長した姿みて喜んでくれるかな?」
彼女の名は「はつみ」
イスプリスの村から遥か離れた「邪馬」の国で口寄せの術の勉強をする為に留学していたが、晴れて今年卒業して故郷へ戻ってきたのだ。
村を一望出来る丘の上ではつみは村を出て行く時の事を思い出していた。
邪馬へ留学すると言い出したのは彼女だったが、大好きな家族と離れて暮らさなければならない事、邪馬で一人で暮らす事への不安から出発の日まで留学を諦めかけていた。そんな彼女を家族で励ましてくれた。はつみの道ははつみが決める事だから。あなたが思うようにしなさい。と。
(はつみの道ははつみが決める事…だよね。父さん、母さん。私、自分が生きていく道を決めたよ。身勝手な娘でゴメンなさい)
はつみはどこか寂しそうな表情をして梨を収穫する村人達を眺めた。