139 白子のコミケ 1

年末のこの時期はネットでもコミケの話題でもちきりになる。
俺が普段から通ってるVipper板(2ch)でもコミケで捉えられた面白い話題が一杯転がっていて、冬休みはこたつの中でネットしながら忙しくコミケを楽しむ人達を遠目に見ているのが楽しかった。
今年のコミケもそんな感じで対岸の火事を笑いながら見ているような自分のまま、過ぎていくものだと…思っていた。
「キミカちゃーん、コミケに行きますにぃ」
「いってら」
こたつの下に潜り込んでそのまま、俺はケイスケに手を振った。
「ちがう!ちがーう!!キミカちゃんもマコトちゃんも行くんですぉ!」
「はぇぁ?」
俺はソファの上に寝転がっているマコトと顔を合わせてから、声は発しなかったけれども「はっはっは、何言ってんのアイツ」みたいなのが今にも声として出そうな表情で軽く笑いあった。
その時だ。
(ぴぃーんぽぉーん)
という玄関の呼び出し音がするのだ。
見れば家の前の道路に車が止まってて誰かがそこから出てきているようだ。その誰かは玄関の辺りにウロウロした後、今度は庭のほうに回りこんできて家の窓ガラスに顔を近づけてくる。
ミサカさんだった。
疲れた顔、くしゃくしゃの髪、それがちょっと笑顔を作ってガラスと(コンコン)と叩いているのだ。
「嘘ォ…」
こりゃ、コミケに行くっていうのはコミケでテロが云々の話で行くって意味じゃないのか?マジかよぉ…。
マコトもびっくりして起き上がってから、
「嘘ォ…」
と俺と同じリアクション。
というわけで、俺達は警察の方々と一緒にコミケに行くことになった。
年末に仕事というので俺とマコトは冬休み気分が抜けてしまってなんだかムカついていた。この事実にもムカついていたけれども、何よりムカついたのはのんびりしたいのにテロを予告してるクソテロリストに対してだ。
「もしテロリスト見つけたら殺していいよね?」
ヘリの中でそう言う。
「あーもう、殺っちゃって、殺っちゃって。許可するわ」
疲れた顔でミカサさんが言う。
マコトがミサカさんに質問。
「今回のテロリストはどういう目的でコミケを襲撃するの?」
「なんかつまんない理由よ。なんだったかなぁ…白子のバスケ?っていう漫画があるんだけど、それの同人誌が、もちろんコミケだから出るわけよね。薄い本よ。イヤラシイ事が描いてあるのよ。それでね、そこに登場するのは…ん〜まぁ、白子のバスケに出てる登場人物がイヤラシイ事をするシーンがあるわけだけどさ、その組み合わせが気に入らないらしいのよ」
マコトは訝しげな顔で、
「い、意味がわかんないよォ…」と言う。
俺は白子のバスケっていうのを見たことはある。確か少年チャンプの連載で、いいガタイをした男ばっかり出てきてバスケットをするって話だったような気がするんだけど…そもそも、そこに女性キャラって出ていたっけ?
「わ、私も見たわけじゃないからわかんないけどさ、例えるのなら…アニメで仮にAとBが付き合ってたとするじゃない?」
「うん」
「でも同人誌の中ではAとCがどういうわけか付き合うの。そういう風に本来のストーリーを捻じ曲げるわけなのよ」
「あーうん。同人誌ってそういうもんだしね」
マコトは日本のそういうものも好きらしい。
「でもね、人の中にはAとCが付き合うのが嫌だって言って、AとDを付きあわせたいと思ってる人がいるわけよ」
「…そ、そりゃそうだね…でも、それはそれで好きにすればいいんじゃないのかな?AとDが付き合ってるような同人誌を買えば…」
「だから、今回のテロリストはAとBが付き合うような本来のストーリーも、AとCが付き合うような同人誌のストーリーも嫌いなのよ。そういうのをコミケで売ってほしくないらしいの。で、コミケ事務局へ脅迫状をよこしてるの」
「え?」
俺も「え?」と声に出してしまった。
例えるのなら、回転寿司で自分が嫌いな卵寿司とか出てきたら、回転寿司屋に脅迫状を出すようなレベルだ。お前が食わなきゃいいだけだろうっていう。
そしてその事情を知った俺やマコトはふつふつと怒りが湧いてきた。
そんな理由で、そんなクソみたいな理由で俺達は呼ばれたのかと。
「その犯人見つけたら殺してもいいですよね」
マコトが言う。
「あーもう、殺っちゃって、殺っちゃって。許可するわ」
軽い感じでミサカさんが答える。
ミサカさんも振り回された側の一人なのだ。
「よし…ボクのエントロピーコントロールで液体に変えてやるよ…絶対に許さない…」
怒りに燃えるマコト。
「ちょっ、ちょっと待ってよ」
と俺が間に入る。
「な、なんだい、キミカちゃん…止めないでおくれよ…」
「あたしも怒りに燃えてるんだから、あたしにも殺させてよ」
「わかった。こうしようよ。ボクが半分で、キミカちゃんがもう半分で」
「おーけー!でも上下半分だとどっちが量が多いかわからないから、左右半分にしよう。頭とか意外と重いからね」
「うん。きっちり半分にするところはキミカちゃんにお願いするよ。半分になってまだ意識があるところで、ボクが片方を液体にする」
「んじゃ、あたしのほうは…」
「二人共何を話してるのよ?!」
ミサカさんが俺達を見て言う。
どうやって殺そうか話し合ってるに決まってるじゃないか!